Art Works Ushio Sakusabe サクサベウシオ

sakuhin_001

浮波曲線 2011
ギャラリー ブロッケン/小金井市、東京
自然石、帯鉄板、ステンレスワイヤー、鉄筋、針金
h5m x w4.7m x d4.7m

Another Angle

At Art Works

Comment

  • 松永 康 アート・コーディネーター

歪みの構造―新たな社会デザイン創出への手がかり

 

1996年、ドイツのハンブルクで開かれた「IKO-TRANSPOSITION」という展覧会で、サクサベウシオは「浮直石環-引力圏から逃れるために」という作品を発表した。これは12個の石を四方の壁や梁からワイヤーで1個ずつ吊り、最終的に中空で石の円環を描くものであった。それは人為を感じさせないほど正確に配置され、その分、不規則に張り巡らされた無数のワイヤーの線がそこにかかる力の量や複雑さを視覚化させていた。

ギャラリーを取り囲む壁や天井、床などは、あたかも重力など存在しないがごとく整然と佇んでいる。しかしそれらを静止させるため、引力や張力、質量といった物理現象がそこには潜んでいる。サクサベはこの作品によって、空間に隠れていたそれらの力を白日の下に晒したのだった。

時があいて2004年、私は「Zeit・青森の+県外の芸術家たち=ACAC」展に出品された「浮円弧」を見た。この展覧会が行われた国際芸術センター青森は、円形構造を持つユニークなギャラリー空間を特徴としている。その円弧状の空間に対しサクサベは、束ねた鉄筋を中空に浮かしそこに重量感のある石を乗せて、縦方向にたわむ大きな円弧を対比させた。

ギャラリーの壁は、会場に立つ者を取り巻くように左右に閉じていく。そのためその空間は、横方向の向心力を常に見る者に与え続ける。一方で作品の円弧は、それと交差するように縦方向へと引き寄せる。この2方向の歪みの狭間に立って、私は浮遊するような心地よさを感じていた。

さてこの鉄筋の曲線は、一見するとあたかも石の重みでたわんでいるように見える。言い換えれば、中央に近づくにつれて大きくなる重力の存在を意識させられる。しかし、自然の力だけではこのような曲線は決して現れない。実は、この鉄筋の束はあらかじめ円弧状に成形されており、あとからそこに石を乗せたものなのだ。

その点でこの表現は、前述のハンブルクでのやり方と大きな対照を見せている。つまり、引力を利用して作品に形態を与えるのではなく、あたかも引力が生み出したかのような形態を空間の中で演出していたのだ。この作品を見たとき私は、サクサベが新たな制作の段階に入ったことを確信した。

サクサベは、微妙なバランスで静止する形態によりその周囲に充満する力を顕在化させてきた。ところがある時期から、実際にはあり得ない重力や張力を、あたかもそれが存在するかのように空間の中で演出する方向へと展開した。人工的な歪みを空間に忍び込ませることで、今までなかった緊張とダイナミズムをそこにもたらしたのである。

空間というのはその形状に応じて、私たちの心理に一定のバイアスをかけている。しかしそれは意識化されないまま、心の奥にある偏りを形成していく。サクサベは作品の置かれる場の歪みを発見し、それを顕在化させるための力学的法則を探し出す。そしてそこに新たな磁場を組み込むことで、人々をこうした心理的な抑圧から解放しようとしているのかもしれない。

                                松永 康(アート・コーディネーター)

< Art Works Top

^ Page Top

Copyrights © Art Works Ushio Sakusabe All Rights Reserved.